電脳文字対話 10
私:やあ、久しぶり。きみはついこのあいだNHKで放送されたETV特集「砂川事件 60年後の問いかけ」を観たかい?
彼:ああ、観たけど、とくに新しい発見はなかったね。
私:たしかに、2008年に新原昭治さんが発掘したマッカーサーと藤山元外務大臣のやりとりなどアメリカの外交文書を紹介してはいたけれど、きわめてNHK的な、ニュートラルな紹介のしかたで、ちょっと違和感を感じたね。かつての駐日米国大使が日本の外務大臣を自ら関係のある裁判についての判決(伊達判決)が出た翌日に自宅に呼びつけ、跳躍上告にすることを今日の閣議にかけろとかいろいろな指示を出しているのだから、これはもう大事件と言ってよいだろう。なぜこのことに対する評価がないのだろう? もう少しはっきり発言できる学者さんを呼んだほうがよかったんでないの、と思わざるをえない ⑴。
彼:たしかに、ダグラス・マッカーサー2世による藤山や田中に対する働きかけによってこの裁判は結審したといってもよいだろうからね。この砂川最高裁判決によって、今も沖縄をはじめとする米軍基地周辺の人たちは現実に苦しんでいるというのに、そのことに対する明確な批判がないというのも、ドキュメンタリーの製作者サイドの基本的なスタンスのあり方に疑問を感じざるをえないよね。
私:基地だけでなく、原発周辺の住民たちも、砂川裁判という安全保障関連の判例によってなかなか原発を止められなくて苦しんでいるからね。ところで、今回新たに、当時の裁判官のひとり、入江俊郎が統治行為論に対して投げかけていた疑問を示す資料を紹介していたが、そんな良心的な裁判官もいたのかもしれない、とぼくも何とか好意的に解釈しようと努めてはみたけれど、結局、原告の土屋さんたちの再審要求は簡単に突っぱねられてしまったわけで、そんな美談は関係ないさ、と思わざるをえない。
彼:そうしてみると、最近、社会派漫才で男をあげたウーマンラッシュアワーの方がよほど骨太ということになるのかな。
私:ああ、「THE MANZAI」で演じたネタのことだね。「アメリカに思いやりをもつ前に、沖縄に思いやりをもて!」というのはきわめて正論であるけれども、地上波のテレビで人気芸人がそういうことを言った、ということが大きな反響を呼んでいるんだろうね。日本のメディアが基地問題、被災地問題、原発問題をあまり取り上げないで、くだらないニュースばかりたれ流していることの背景には国民の意識の低さが存在するという彼らの指摘も正論ではあるが、それだけじゃなくメディアの側も権力の犬になって能動的にそういうくだらないニュースや話題ばかり取り上げているという側面も忘れてはならないし、また本質的な議論に触れないようにしていつも適当なことばかり言っている御用コメンテーターや御用学者の存在も忘れてはならない。
彼:なるほどね。でもまあ、今回の彼らの漫才はインパクトとしてはNHKの特集より大きいだろうね。最近、きみは「言葉の乱れ」について少し書き始めたようだけど、このあいだテレビで今年のJリーグMVPの選手がその授賞式のインタビューで、自分の配偶者のことを
「奥さん」
と言っていて、驚いてしまったよ。そんなにこの言葉は市民権をえているのかと。
私:ぼくもそれはニュースかなんかで見て、まったく悪びれる様子なく自然に言っていたんで、腰を抜かしそうになっちゃったね。でもそうしたら数日後、満面笑みの太川陽介が、芸能リポーターにかこまれて、同じく配偶者のことを「かみさんだから!」とはっきりと言ってて救われたよ(笑)。
彼:別に「妻」でもいいんだけどね(笑)
【註】
⑴ 一橋大学の山内敏弘氏が、マッカーサーに接触していた最高裁長官の田中耕太郎の守秘義務違反について「日本の司法権の独立、裁判官の独立の流れの中で非常に大きな汚点を残した」と表現していたのと、砂川最高裁判決によって、すなわち統治行為論によって人権を侵害することになってしまった、と批判をしていたのが唯一の例外である。もちろん、原告の土屋氏たちが一貫して強い憤りを表現していたことはいうまでもない。
(2017年12月22日記す 2026年4月8日更新、再掲)
彼:ああ、観たけど、とくに新しい発見はなかったね。
私:たしかに、2008年に新原昭治さんが発掘したマッカーサーと藤山元外務大臣のやりとりなどアメリカの外交文書を紹介してはいたけれど、きわめてNHK的な、ニュートラルな紹介のしかたで、ちょっと違和感を感じたね。かつての駐日米国大使が日本の外務大臣を自ら関係のある裁判についての判決(伊達判決)が出た翌日に自宅に呼びつけ、跳躍上告にすることを今日の閣議にかけろとかいろいろな指示を出しているのだから、これはもう大事件と言ってよいだろう。なぜこのことに対する評価がないのだろう? もう少しはっきり発言できる学者さんを呼んだほうがよかったんでないの、と思わざるをえない ⑴。
彼:たしかに、ダグラス・マッカーサー2世による藤山や田中に対する働きかけによってこの裁判は結審したといってもよいだろうからね。この砂川最高裁判決によって、今も沖縄をはじめとする米軍基地周辺の人たちは現実に苦しんでいるというのに、そのことに対する明確な批判がないというのも、ドキュメンタリーの製作者サイドの基本的なスタンスのあり方に疑問を感じざるをえないよね。
私:基地だけでなく、原発周辺の住民たちも、砂川裁判という安全保障関連の判例によってなかなか原発を止められなくて苦しんでいるからね。ところで、今回新たに、当時の裁判官のひとり、入江俊郎が統治行為論に対して投げかけていた疑問を示す資料を紹介していたが、そんな良心的な裁判官もいたのかもしれない、とぼくも何とか好意的に解釈しようと努めてはみたけれど、結局、原告の土屋さんたちの再審要求は簡単に突っぱねられてしまったわけで、そんな美談は関係ないさ、と思わざるをえない。
彼:そうしてみると、最近、社会派漫才で男をあげたウーマンラッシュアワーの方がよほど骨太ということになるのかな。
私:ああ、「THE MANZAI」で演じたネタのことだね。「アメリカに思いやりをもつ前に、沖縄に思いやりをもて!」というのはきわめて正論であるけれども、地上波のテレビで人気芸人がそういうことを言った、ということが大きな反響を呼んでいるんだろうね。日本のメディアが基地問題、被災地問題、原発問題をあまり取り上げないで、くだらないニュースばかりたれ流していることの背景には国民の意識の低さが存在するという彼らの指摘も正論ではあるが、それだけじゃなくメディアの側も権力の犬になって能動的にそういうくだらないニュースや話題ばかり取り上げているという側面も忘れてはならないし、また本質的な議論に触れないようにしていつも適当なことばかり言っている御用コメンテーターや御用学者の存在も忘れてはならない。
彼:なるほどね。でもまあ、今回の彼らの漫才はインパクトとしてはNHKの特集より大きいだろうね。最近、きみは「言葉の乱れ」について少し書き始めたようだけど、このあいだテレビで今年のJリーグMVPの選手がその授賞式のインタビューで、自分の配偶者のことを
「奥さん」
と言っていて、驚いてしまったよ。そんなにこの言葉は市民権をえているのかと。
私:ぼくもそれはニュースかなんかで見て、まったく悪びれる様子なく自然に言っていたんで、腰を抜かしそうになっちゃったね。でもそうしたら数日後、満面笑みの太川陽介が、芸能リポーターにかこまれて、同じく配偶者のことを「かみさんだから!」とはっきりと言ってて救われたよ(笑)。
彼:別に「妻」でもいいんだけどね(笑)
【註】
⑴ 一橋大学の山内敏弘氏が、マッカーサーに接触していた最高裁長官の田中耕太郎の守秘義務違反について「日本の司法権の独立、裁判官の独立の流れの中で非常に大きな汚点を残した」と表現していたのと、砂川最高裁判決によって、すなわち統治行為論によって人権を侵害することになってしまった、と批判をしていたのが唯一の例外である。もちろん、原告の土屋氏たちが一貫して強い憤りを表現していたことはいうまでもない。
(2017年12月22日記す 2026年4月8日更新、再掲)