電脳文字対話 1
彼 :とうとう夏本番だね。
私:とうとう来たね。ここ数年、ぼくは夏が来るともう思考回路がストップしてしまうくらいダメだね。この異常気象は地球の終りが近い事を暗示しているのかもね。
彼 :科学的な検証もしないでそう決めつけてしまうのはどうかな、と、あえて野暮を言ってみる。夏は昔から暑かったろう。
私 :実はこのままいくと深刻な事態を招くという科学的なデータはいろいろと出ているのだが…。まあ、いいや、ところで、思想漫画家の小林よしのりが『沖縄論』を出したね。
彼 :ああ、今のところ賛否両論のようだが、結構売れてるみたいだね。
私 :思想的な好き嫌いは別にして、ぼくはいい本だと思ったよ。第一に、少なくとも彼が自分でいろいろ調べて、自分の頭で考えて書いたところの――しかも多くの学者や評論家が避けたがるやっかいな問題を取り扱っている――独自の問題提起であるということ。第二に、戦後60年たっても実質的にアメリカに軍事支配されているこの擬似独立国家日本の現下の状況を憂い、日本の真の独立のためにきわめて重要な問題である、米軍基地問題及びそれと不可分の沖縄問題について、真正面から取り上げ一般の人々の関心を呼びかけたこと。以上の2点は、イデオロギーや立場の問題を離れて単純に評価できることだろう。恥かしいことに、ぼくは沖縄における基地財政のあり方や、強姦など米軍人の犯罪の実態や、政治家・瀬長亀次郎の業績など、沖縄の歴史について、知らないことばかりだった。
彼:でも、結局彼の主張する自主防衛論は日本の軍事大国化に繋がる危険な思想だと思うんだがな。俺は日本を徴兵制が敷かれる国にはしたくないけどね。
私:君は今のイラク戦争の状況やイスラムと西欧の対立構造の悪化について分っているのかい? アメリカ軍が日本にいることの方がよほど危険な状況じゃないか。アメリカへの義理から、行きたくないイラクに自衛隊を派遣させられ、なおかつテロの脅威にさらされているのは、日本が実質的にアメリカの従属国であることから来るのじゃないのかい? それなら自主防衛体制を確立して、中立的な平和志向国として世界に向かって意思表明した方がよっぽど世界のためにも日本のためにもなると思うよ。経費の問題は、米軍基地への思いやり予算とか、バカ高い最新兵器を買わされたりしてる今の状況を考えたら、十分やっているける、むしろ安く上がるくらいだろう。それから、核を日本が持つ持たないという議論は別にして、結局今の日本は、アメリカの核の傘に守られている状態だから、パキスタンやインドや北朝鮮に核を持つなといっても、まったく説得力がないよね。たとえば、刀を持っていない村民が安全のために刀を持とうとしているとき、横から強大な刀を持つ村に守られている村民が「おまえら、刀を持つな、危ないじゃないか」といったって、一笑に付されるだけだろう、というより姑息な奴ということでむしろ軽蔑の目でみられるだろうね。
彼 :君もまたずいぶんな反米論者になったものだね。
私:今の時代、もうレッテルやイデオロギーで人を判断する時代じゃないよ。この日本という国をどうするか、自分たちはどういうふうに生きていきたいか、というところから考えを進めていかないと、何も変らないよ。
彼:でもまあ、小林の主張の中には独断が多くて、とてもじゃないけど、全部賛成する気にはなれないよ。
私:ぼくだって全部賛成なわけじゃない。が、あえて取り扱いにくい問題を勉強して取り組んで、独自の論を展開したことは認めてあげないとね。かつて三浦つとむは、日本のマルクス主義者が自分で認識論を作ろうともしないのにブルジョア学者の認識論を馬鹿にしているのをみて、「わたしは何もしない・失敗しない・怠け者よりも、努力はしたが失敗した学者を尊敬する」(『この直言を敢てする』109頁)と言った。そういう意味で、ぼくは小林を尊敬する。
私 :ところで、話はまったく変るけど、この間ラジオのある討論番組を聴いていたら、「煙草は本当に毒か?」という特集をやっていて、そこに愛煙家の代表で木村某という人が出ていた。彼の主張は、煙草を吸わない人が受動喫煙の被害に文句を言うのはよく分る、けれどもだからといって、喫煙者を根絶する方向に向っている今の国ぐるみの運動のあり方は間違っている、それよりももっと社会的に分煙の体制を確立してほしい、そうすればより迅速により確実に受動喫煙の被害を食い止められるし、喫煙者も禁煙場所で吸わなくて済む、というものだ。ぼくも愛煙家のひとりだが、彼の意見はきわめて真っ当だと思うな。
彼:でもまあ、煙草が身体に害を及ぼすというのは事実だし…。
私 :木村さんは、あまり「害がある、害がある」と喧伝してしまうと、喫煙者を心理的に圧迫して、最終的に本当に喫煙者の身体を害することになってしまうかもしれない、という意味の事も言っておられたよ。煙草の警告文の表示を法律で規制して大きくするなど、やりすぎじゃないのかい、善良な市民をあんまり脅さないでくれよ。
彼:喫煙者一般が「善良」かどうかは置いといて、たしかに脅しすぎは良くないだろうね。まあ話をきいたかぎりでは、その木村某氏の言ってる事自体は理路整然としていて、嫌煙家にもよく理解できる内容だと思うよ。
私 :それだけじゃない。彼はユーモア精神が豊かで、実に愉快だ。ラジオ番組の終りに、彼はナビゲーターから嫌煙家に向けてひと言、と言われて、こう言った。「あんまりヒステリックにならないで、まあ一服しながらゆっくり話し合いましょう」。すると、すかさずナビゲーターが「お茶を飲みながら話し合いましょう」とつけ加えていたが、深刻な議論の最後をこんな風に締めくくる事が出来るなんて、ほんと、イカシテるじゃないか。
彼:ナビゲーターは、そこは真面目にフォローする場所じゃなかったね、一緒に笑うべきところだろう(笑)。
私 :また話はかわるけど、ついに浜省が新譜『 MY FIRST LOVE 』を出したね。
彼:うん、今回は浜省にしては珍しく大掛かりなプロモーションをしてるようだね。
私 :ラジオとか、頻繁に出てるみたいだね。さっそく買って聴いてみたが、素晴らしい出来だと思うよ。五十を過ぎても創作力にまったく翳りがみえないね、すごい人だね。「 I AM A FATHER 」なんか、まさに自分の応援歌という感じがして、思いっきり感情移入が出来るし、「君と歩いた道」「光と影の季節」「初恋」なんか浜省の中でも名曲の部類に入ることになるんじゃないかな。
彼:俺はパーティー・ソングの「この夜に乾杯!」とか、社内恋愛を描いた「デスク越しの恋」なんかが好きなんだけど、やっぱりバツイチなだけに、「花火」が一番好きだね。妻子を置いて逃げたああいう救いようのない男にも、憐れみの情を投げかけてくれている。人間の行動の源泉には言葉で説明できない複雑なものが絡み合っているってことだね。
私:君は協議離婚じゃなかったっけ。「花火」は、浜省によると、「 I AM A FATHER 」と対になっている曲で、典型的なお父さんとちょっとドロップアウトしたお父さんとを対比で描いているらしい。まあでも、ぼくもあの曲を聴いている間は、ああいう男の心情が分るような気がするよ。そこがまた浜省の歌の魅力なんだよね。
彼 :なるほど。ところでこの間、福山雅治のやってるラジオに浜省がゲストで出てたんだけど、福山は十代の頃から浜省のファンだったらしい。意外だね。
私:意外じゃないだろう、役者とかアイドルの中でも浜省のファンはたくさんいるし。ただ、ぼくもそのラジオは聴いていたけど、福山のアイドル性が抜けきらない発言になんか違和感を感じたね。浜省のように音楽でやっていく覚悟があるのなら、もっと堂々とした言動をしてほしいところだ。
彼 :なんだい、その発言とは?
私:浜省が結婚が話題になったときに福山に聞いたんだよ、「福山くんは今彼女いるの?」って。そしたら軽く無視して話題転換だよ(笑)
彼 :言うことないよ(笑)
(2005年7月21日脱稿 2025年9月22日gooブログより転載)