電脳文字対話 18(新型コロナと本質論)

: いやあ、まいったよ。

: どうしたんだい?

: きのう近所のスーパーに行ったらホットケーキミックスがすべて売り切れていたんだよ。俺の唯一の手作り料理を作ることができないなんて。

: そんな告白どうでもいいけど(笑)、うわさどおりみたいだね。

: うわさ?

: ああ、いま多くのスーパーで小麦粉、薄力粉、パン粉、ホットケーキミックスなどが売り切れらしい。それで、メルカリでそれらが定価の3倍とかの高額で売られていると。

: なんでまたそんなことになってるんだい?

: やはり外出自粛生活が長引いてるため、自宅で料理する回数が増えてるということがいえるだろうね。また、YouTubeのレシピ動画を見ながら新たに料理に挑戦する人も多いらしい。それから、れいわ新選組の山本太郎など一部の人がすでに警告を発しているように、食糧危機になりつつある影響ももちろんあるだろうね。

: 食糧危機?

: ああ。山本太郎によると、ロックダウン政策によって、世界的規模で国際貿易と食料品のサプライチェーンに深刻な影響が出ているらしい。封鎖命令と移動制限によって農業労働者の確保や食料品の市場への出荷が不可能となり、農業生産が混乱するリスクがあるとのこと。国連は、保護主義的政策と労働者不足で数週間以内に危機到来と警告してるらしい。

: そりゃまったく知らなかった。それでか、パスタもパスタソースも缶詰めも相当品薄だったよ。

: まあ、まだそれほど深刻ではないけどね。けれども日本はとくに食糧自給率37%だからね。小麦の備蓄は2ヶ月ちょっとらしいから、夏頃にはもっと深刻な状態になっているかもしれない。

: だろうね、当然、日本の小麦の主な輸入先であるアメリカやカナダ、オーストラリアなども国内需要を優先させるだろうからね。

: バカ高い兵器を買うかわりに自給率あげるためにその分のお金を使っていたら自給率50%くらいにはなってたかもしれないよね。

: そう考えると自給率を減らし続けた自民党政権の罪は重い。そういえば日本で新型コロナ治療薬レムデシビルが承認されたみたいだね。

: ああ、アメリカ様に気を使った「特例承認」でね。本来ならば、日本の特効薬ともいうべきアビガンを早めに「特例承認」すべきだったんだけどね。まあ、レムデシビルの承認をしたもんだから、義務は果たしたということでアビガンの5月内承認がどうやら成立しそうな見込みになったけどね。

: ああ、アビガンって、宮藤官九郎や石田純一、赤江珠緒なんかが投与されて回復した薬だね。ずいぶんと優秀な薬じゃないか。

: ただ、アビガンは発症から5日目までに投与するとウイルスの増殖を劇的に抑えて効果があると言われてるんだが、いま現在、一般の患者にそれほど早い段階で投与できる体制にはなっていない。

: どういうこと?

: ある動画でコロナにかかって入院して、そこから復帰した芸人の体験談を紹介していたんだけど、彼はある日の夕方、突然からだ中の関節に激痛が走り、熱はあっという間に40度を越え、すぐに41度にまで達したらしい。その後さらにひどい症状となり、夜中に救急車で病院に運ばれ、血液検査をしてもらったところ血中のリンパ球の減少が判明、典型的なコロナの症状と分かる。が、時間が遅くてもろもろの検査が出来ないからと解熱剤を処方してもらい自宅待機を勧められたらしい。

: 恐ろしい展開だな。

: ところが家へ帰っても解熱剤が効かず相当苦しんだあげく、そこから3日目にようやく予約がとれて病院に行ってCT検査をしてもらったところ、肺炎の症状が見つかり、ここでやっとPCR検査を受けることができる(ここではじめて陽性が判明する)。けれども、その段階でもまだ入院できず、さらに2日間自宅で待機を余儀なくされ、発症から5日目になってようやく指定の病院に入院できたらしい。ただ、その段階では彼の症状はすでに中等症から重症のあいだぐらいであり、いきなりICUに入れられたとのこと(その時の彼の症状はすでに熱、頭痛、全身の関節痛、せき、胸の息苦しさ、食欲減退、下痢などで苦しさこの上ないものだった)。ICUには5日間いたらしい。ようするに、現段階では、アビガンを投与してもらう環境に持っていくまでにかなり時間がかかってしまうということだ。

: そりゃひどい。

: しかもアビガンは、赤江珠緒がいうには、アビガンの研究を行っている機関と、その機関に研究対象グループとして申請した病院だけしか処方が許されていない上に、その申請は書類手続きが煩雑で難しいらしい。まあ5月に承認されたら一般の病院にも行き渡るとは思うけどね。

: ところで日本のPCR検査数は伸びているのかな?

: いや、相変わらずそれほど増えてはいないね。先日、5月4日の専門家会議の会見で、尾身副座長は検査が思うように進まない理由について、「保健所業務の逼迫」「感染防護具の不足」などを挙げていたけれども、「なんで今頃そんなこと言うの?」って感じだったね。そもそもかなり前から同じようなことは言われていたし、そういう状況が仮にあったのならば、その時点でそれを公にして、保健所に人があと何名必要とか、防護服はそれぞれいくつ必要とか、民間の活用を拡充していきたい旨を公表するとか、早急に対策を講じ行動すればよいだけの話だろう。結局、上のような発言は言い訳でしかないんだよね。

: まさに「できないと言うな、やりたくないと言え!」というレベルだね。

: そのとおり。そもそも日本には顔の見える旗振り役がいないし、結局、日本のエリートにありがちだけど、政府や「専門家」たちや官僚は、大きな視野から全体を見渡して本質を把握するという作業が苦手なんだよね。かつて三浦つとむは、日本の家庭について論じる際に、アメリカ人のルーズ・ベネディクトの論考があまたの日本の学者のそれらを凌駕していることに感服して、次のように述べている。

《 戦時中であったために、ベネディクトは在米日本人や映画や記録などを材料として、日本人を研究するにとどまった。これは諸種の文献をあさり井戸を深く掘っていく傾向の日本人の学者から、不十分と見られ幼稚と思われて批判されている。具体的歴史的な説明が欠けているとか、不当な一般化が行われているとかいわれている。だが私の見たところでは、山の頂上に存在するような真理をしっかり押え、全体としての大きな見かたをした点で、彼女はそれらの批判者を凌駕している。日本の家庭を論じる場合に、彼女の仕事を無視することはできない。

川島(武宜--引用者)は支配階級のイデオロギーの検討をすすめ、封建社会における封建的な恩を対象として、井戸掘り的な研究をすすめたのだが、ベネディクトはそうでなく、一般的な日本人の思想・感情のパターンをさぐり出そうとして、日本人大衆の社会的人間観という大きな見かたから出発し検討をすすめた。両者は問題に対する接近の方法が異っているのである。そのために、川島にとっては彼女の研究が不十分な幼稚なものに見え、「恩というものを理解することは、外人にはよほどむつかしいらしい」と評しているのだが、日本人大衆の恩の意識の理解においては実はベネディクトのほうがすぐれており、恩や孝についての本質的な理解へすすむための鍵はむしろ彼女によって提供されているということができる 》(三浦つとむ『生きる・学ぶ』【季節社】176~177頁、太字--引用者)

: ルーズ・ベネディクトといえば、あの名著『菊と刀』で有名な人だよね。

: そう。ところが彼女は、日本の学者たちがあまりに当たり前であるためになかなか自覚的に把握できないでいた、日本社会に隠然として存在する「相互債務の巨大な網状組織」について、明晰な理解に到達していたんだよね。

: なるほど。

: 三浦つとむの言語論もそういう本質的把握の典型な例だろうね。三浦つとむは、1回1回が別々の個人的行為であることを本質とする言語表現(理解)行為と、ラングや言語記号(シーニュ)などの社会的存在とがどのように関係するかについて、認識論を武器に統一的かつ合法則的な説明を与えた、つまり言語の本質的な謎を解いた、このことの栄誉は永久に彼(および時枝誠記)のものだと、ぼくは思っている。

: なんか話が脱線しすぎてないか?

: ごめんごめん。今回のことでいえば、韓国の新型コロナ対策は見事だったよね。徹底的な検査と徹底的な隔離という基本戦略を維持しつつ、漏れてしまった感染者たちは最新のモニターシステムを構築してその情報を市民と共有するというものだ。見事にウイルスの封じ込めに成功したよね。また、台湾もオードリー・タンという優れた担当大臣を起用することによって、水際対策や入国者の隔離措置を徹底し、医療用マスクの計画的な増産も行った。彼はまた、マスクの在庫管理のアプリを活用し、市民がつねにマスクの在りかを把握できる状況をつくり、これによって買い占めなどを防ぎ「安心」という市民にとってもっとも重要な精神的支えを提供した人だ。

: 素晴らしいね。ところで最近、パンデミックに関係したことなのかもしれないけど、先ほどの食料の問題や、一部でささやかれている大型地震の前兆の話など、世情が穏やかじゃいよね。きみの家は備えは万全なのかい?

: いや、それがね、ぼくも少し危機を感じて、普段はあまり見ない、CSのディスカバリーチャンネルのサバイバル関係の番組を見てサバイバルの練習でもしておこうかと思ったんだけど、番組冒頭の無人島でいきなりビル4階の高さに該当する断崖を木の蔓をつかって登るシーンを見てあきらめちゃったよ。高所恐怖症なんでね。

: そこは飛ばして見ろよ(笑)

 

 

 


(2020年5月9日記す  2026年4月18日更新、再掲)

2026年04月18日