電脳文字対話 5

:君は三島由紀夫の「オー・イエス」というエッセイを知ってるかい?

:知らないけど。

:三島のユーモラスなエッセイ集『不道徳教育講座』に収められているもので、外国人(白人)には卑屈で日本人には傲慢な態度をとる近代日本の知識人のひとつの典型を風刺したエッセイなんだが、最近、この典型がまだ過去のものでないことをまざまざと見せつけられた気がしたよ。三島は、アメリカに滞在中、アメリカ人の教授の家に食事に招かれて、そこで日本のある地方大学の総長と同席になった際、この総長が英語が苦手なくせにアメリカ人からの問いかけにはすべて「オーイエス!」と答え、満面の笑みを浮かべニコニコ愛敬をふりまく一方で、三島に語りかけるときには「あ~ん、君は何かね…」と戦前の憲兵のような態度をとることに愕然として、このことをユーモアたっぷりに戯画化して描いていたんだが、僕は先日の日米安全保障協議委員会後の記者会見の席で、大野前防衛庁長官が「米軍再編には相当な財政が必要だ。(日本の支援については) 『オー・ノー』と言わずに、『オー・イエス』と答えた」という記事(朝日新聞10月30日朝刊)を読んで、まっさきに三島のエッセイを思い出してしまったよ。記事の横には、満面笑みの大野氏の写真が載っており、しかもどうやらこの言葉は自分の名前(オーノ)に掛けた駄洒落らしい。記事には、「大野防衛庁長官の軽口が、ライス国務、ラムズフェルド国防両長官の笑いを誘った」とあり、大野氏のはしゃぎぶりが伝わってくる。が、しかしだ、僕はすぐに思った。ラムズフェルドとライスは本当に笑ったのだろうかと。アメリカ人はこの手の卑屈な駄洒落をユーモアとは思わないだろうと思われるからだ。

:ラムズフェルドらが笑ったのはたしかもしれないが、それはもしかしたら別の意味の失笑だったのかもしれないね(笑)

:たしかに、「こいつ、うまく丸め込まれてるのにもかかわらず笑ってやがる」と、してやったりという意味での笑いだった可能性が高いね。在日米軍再編に関する中間報告では、キャンプ座間にアメリカ陸軍の統合作戦司令部が置かれること、沖縄の普天間飛行場の移転先にキャンプ・シュワブ沿岸が選ばれたこと、沖縄在住の海兵隊将校ら7000人をグアムに移転する莫大な費用を日本が負担すること(犯罪率の高い一般の海兵隊員の移転ではない)、横田基地に日米の「共同統合運用調整所」を設置すること、また横須賀に原子力空母を配備することなどが盛り込まれている。どの案も、地元住民と自治体は反対している。地元との話し合いもなしに、こんな地元を無視した軍隊の再編案が勝手に決められていったのでは、不合理きわまりない、彼らが怒るのも無理ないよ。

:そういう意味では、さっきの大野氏の駄洒落は、日本人も笑えないね。こんな不利益を飲み込んでおいて、その上さらに「オー・イエス」とアメリカにおべっかを使ってるんじゃあ、話にならないね。とりあえず俺達も住民の反対運動を応援しようじゃないか。

:各自治体に第2、第3の瀬長亀次郎が出てきてほしいところだね。これで、小泉政権が完璧に米軍の世界戦略のために軍レベルでも協力しようとしていることが明らかになったね。

:だいたい、冷戦終了後に米軍が日本にいてどういう意味があるのかが俺にはよくわからない。抑止力? 対中国、対ロシア対策のために本当に彼らが必要なのかな?

:いや、むしろ逆効果だろう。日本としては、アメリカがいない方が、中国ともロシアとも、さらには韓国とも仲良くなれるだろう。結局、アメリカがアジアを押えておくための本拠地なんだろうね、日本は。アメリカとしては、日本や韓国から軍隊を撤退して、日本・韓国・中国で軍事同盟でも作られたら、恐ろしくて仕方ないのかもしれない。だから、ある意味アジアを分割統治するための戦略のひとつなのかもしれない。実際、ある意味、アメリカは日本と表面上仲良くしておいて、裏で中国と手を結んでいる可能性もある。あとはもちろん、中東やイスラム国家に対して睨みを利かしておくためにも日本あたりに基地を置いておくことが重要であることはまちがいないけどね。

:裏を勘ぐりはじめたらキリがないけど、もしも日本の政治家がアメリカから恫喝されて米軍の拡大案を押しつけられたり金を搾取されたりしているんだったら、そのことを俺達国民に知らせてほしいよな。知らせない、隠していることは、それこそ本当の意味で「非国民」だよな。

:一説に、田中角栄がアメリカに潰されたのは、そういうアメリカの恫喝に屈せず独自外交をしようとしたからだ、というのがあるが、もしそれが本当だとしたら、今の日本の政治家の総ポチ化現象はうまく説明がつくよね。しかし、それが真実だとしたら、明治維新をやってのけた志士たちのような若い人たちが革命を起こさないかぎり、この国の未来が暗いことはたしかだろうね。

:君にしてはめずらしく言うことが過激だね(笑) でも、まあ、俺たち一般の国民も、そろそろそれくらいの危機意識を持ったほうがいいのかもしれないね。


 


(2005年11月23日記す  2025年12月4日再掲)

2025年12月04日