電脳文字対話 25(米津玄師 『死神』 MVについて)

: 「アジャラカモクレン テケレッツのパー!」

: いきなりなんだい? きみも今、米津玄師の新曲「死神」のMVにハマっているのかい? あの古典落語『死神』をモチーフにした歌で、3日前の夜に動画が公開されるやいなや凄まじい再生回数を記録して話題になっている、あのMVに。

: 「アジャ? アジャパー?!」

: それは『死神』とは関係ない、昔の若者言葉だろう(笑)

: スマンスマン、すっかり「死神」のMVの世界に入りこんでしまっていたよ。きみもハマっただろう?

: ぼくも、「Flamingo」のようなおちゃらけた独特の世界観が落語の和のテイストとうまく融合している傑作だと思ったし、そもそもサビで伴奏されるグルーヴ感のある、ディストーションの効いたヘヴィなギターサウンドにハマってもいるよ。だけども、この曲は、聞けば聞くほどいろいろな発見があるよね。

: 足音やろうそくを消す音など、いろんな音について興味を持ち、工夫をこらして音作りをしたみたいだね。

: あと、何人かいる客席の米津玄師もそれぞれに個性があって面白いね。これは「Lemon」の玄師で、これは「Flamingo」の玄師みたいだとか、いろいろと「考察」している人たちもいるよね。

: 俺はなんといっても、着物を着た米津玄師が呪文を唱えて手を叩くシーンが好きだね。

: たしかに、玄師ワールド全開の魅力的なシーンだよね。で、ここからは、まったく妄想的な「考察」なんだけどね…

: なんだいなんだい?

: 歌詞のしょっぱな「くだらねえ いつになりゃ終わる?」を初めて聞いたときから、直感的に、ぼくは気になってることがあるんだよね。

: なんだい、気になってることって? そんな勿体ぶっていうと、よけい気になる。

: いやね、米津玄師がこの曲を作っているときって、第3回の新型コロナウイルス感染者拡大にともなう、緊急事態宣言下だったと思うんだよね。

: まあ、時期的にかぶってはいるだろうね。

: それでだ、この曲の歌詞って、もしかすると、政府や自治体の拙いコロナ対策に対する皮肉も寓意されているのではないか、ともぼくは思ってしまうんだ。

: ははぁ、なるほど、「くだらねえ いつになりゃ終わる?」とは「緊急事態宣言」のことってか? そりゃ、勘ぐりすぎだろう。

: そう、たしかに米津玄師はあまり政治的な発言をする人ではないし、最近のラジオでも、《「重たいこと」や「シリアスなこと」、あるいはそういったことにまつわる「怒り」とか「自分の意志表明」だとか、そういうことばかりが前面に出ている世の中って不健全なのかもしれない。だからこそ、「シリアスなもの」をななめから見る、ヘラヘラしながら見る、っていう側面が実はもの凄く重要なんじゃないだろうか。重たい重たい残酷な日常があるからこそ、そういうヘラヘラした部分がないと、乗り越えられないのてはないだろうか。今の自分は、そういった「シリアスなもの」を、どれだけ笑い飛ばすことができるか、なんてことを思いながら、今は音楽を作っている》(You Tube動画「米津玄師 Pale Blue Radio」【2021.6.19】より。引用者による要約)と言っている。ぼくも勘ぐりすぎだとは思うんだけど、ただ、「ヘラヘラした」立場からであるならば、ひと通りそういう寓意の解釈も可能ではないか、ということは指摘しておきたいんだ。

: 言われてみると、3回目の緊急事態宣言が発令されたときに、Twitter でこれまでの政府のコロナ対応の杜撰さについて手厳しく批判した野田洋次郎は、米津玄師の親友だしね、ありうることかもね。ただ、それでもやっぱり俺は下衆の勘繰りだとは思うけどね。俺の玄師様は政府を批判するような野暮じゃないよ。

: いや、こういった「ななめ」から見たやりかたは野暮ではなく、洒落が効いていると思うけどね。まあ、もちろん、すべての歌詞にそういう寓意があるというわけではなく、基本は落語の演目「死神」に沿った内容になってはいると思う。

: そういえば、歌詞の「なんか死にてえ気持ちで ブラブラブラ」って、今の時代、落語「死神」に出てくる「甲斐性なし」男だけでなく、いろんな人がそうなってるかもな。営業を20時までと決められた飲食店などの人たちは、ただでさえ稼げないのに、持続化給付金がなかなか出ないし、やることがない、そういう意味でほんとうに「死にたい気持ち」になっている人もいただろうし、今もいるだろうしね。それ以外にも、結構多くのひとたちが収入が減って外出自粛も促されているのに、前回の宣言下には出た国民全員に配る給付金が出ないとかね、もうやけになっている人はそこそこ多いかもね。

: たしかにそうだね。このMVの舞台、新宿末廣亭だって、米津玄師に落語の所作を指導してくれた落語協会の人たちだって、ずいぶん大変な目にあっていると思うし、米津玄師自身、そういうエンタメ業界の困窮した状況についていろいろと熟知もしているし、意見も持っているとぼくは思うよ。

 ところで、また歌詞の話に戻るけど、歌詞の「悪銭 抱えどこへ行く」の「悪銭」なんかは、ぼくは新宿区であった、コロナ陽性になって申請したら見舞金10万円なんてことを思い出しちゃったよ。

: あったなあ、そんな10万円目当てに「申請者続出」なんて騒ぎも。

: 最後のサビの部分なんかもいろいろ解釈が可能だと思うんだけど、ぼくは、隠れて酒類を提供している店に、隠れて飲みに行った客の立場からする描写にも受けとれるんじゃないかと。

: 「プリーズヘルプミー」というのはビートルズに対するオマージュじゃないか?

: それはたしかにあるかもね。それに続く「ちっとこんがらがって 目が眩んだだけなんだわ」は、飲食店で夜に酒を飲んでいるところを、自粛要請をする「見回り隊」に発見され、言い訳をするシーンとも受けとれるんじゃなかろうか。

: ちと考えすぎな気もするがな。でも次の「そんなけったいなことばっか言わんで 容赦したってや」なんかはそんなシーンがしっくりくるな。「見回り隊」が酒を提供しちゃいけないじゃないかと店の主人に説教をたれていると、そんな「けったいなこと」言わんで許してあげて、と客が言う、とかね。

: ましてや、最後の「ああ 火が消える 夜明けを待たず」「ああ 面白くなるところだったのに」などは、「見回り隊」が店の主人に説教を垂れていると、いつの間にか20時になり、街中のネオンが一斉に消えるシーンのようでもあり、これから面白くなる飲み会を邪魔された客の不平不満の吐露とも、受けとれるよね。

: するってえと、都の「見回り隊」の職員が死神ってえわけか。それはちょっと可哀想なんじゃあねえか。でもたしかに、東京都は20時に夜の街のネオンを消すようにと、都知事が言っていたよな。それと、ろうそくの火が消えるのを掛けたわけか。

: 急に江戸っ子になるでない。極めつけは、この曲、2コーラスあるのに、このMVでは1コーラスしか収録されていない。こんなこと、これまでの米津玄師のMVにはなかったことだよね。

: たしかに、そうだね。それどころか、そもそも1コーラスしかないMVって、かなり珍しいだろ。

: もしかしたら、飲食店などが早く店を閉めるというのは、こういうことなんだよ、こんなに尻切れトンボな感じのする、切ない、つらいことなんだよ、そういうことが言いたかったんじゃないのかな? もちろん「妄想」の可能性大だとは自分でも思うけどね。

: そのとおり、妄想だろう。

: 妄想ついでにもう一点。「死神」のMVは総時間1分59秒でちょうど2分になる直前に終わっている。

: なるほど、「私、米津玄師は歌手ではありますが、そんな私もちょうど20時(2: 00)になる前に明かりを消して歌うのを止め、閉店しましたでございます。これでよござんすか?」という皮肉か…。考えすぎだよ!

: へい、こりゃまたスンズレイしました!

: おまえも江戸っ子じゃあないだろ(しかも志村けんが入ってるし)!

: 米津玄師は徳島っ子、ぼくは広島っ子だね(笑)

: お後がよろしいようで…。


(2021-06-26 脱稿)



(2021年6月26日記す  2026年4月22日更新、再掲)

2026年04月22日