映画『Love Letter』について

 雨の中、映画を観てきました。『Love Letter』(1995年)の4Kリマスター版です。(ネタバレあります)

 以前、たしかテレビかDVDで観たことがあったと思うのですが、すごく良い映画だなと感銘を受けたのを覚えています。それからだいぶ時間が経ち、少し前に主演の中山美穂さんが亡くなられていることもあり、また映画館で観てみたいという気持ちもあって、観てきました。あらためて映画館で観て、普通のファクトと奇跡的なファクトとが幻想的なストーリーをうまく支えていて岩井俊二監督の力量を感じました。音楽や照明の使いかたもセンス抜群。今回見て、思った以上に、藤井樹(いつき)の中学時代のエピソードがしっかり描かれていて、前回とちがって今回は複雑なストーリーを全部理解することができました。

 女性の藤井樹は渡辺博子に対して手紙を何回も送り、博子の亡くなった婚約者(男性の藤井樹)の中学時代のエピソードを伝えるのですが、その中に、男性の藤井樹が本を借りる際、図書委員である女性の藤井樹に「藤井樹」と書かれたたくさんの図書カードを渡す場面があります。映画の最後のほうで、博子は、カードに書かれたその「藤井樹」という名前は、自分のことではなく、男性の藤井樹が女性の藤井樹のことを想って書いたものではないかと、自分の予想を女性の藤井樹に伝えます。「言語表現あるある」で、映画の観客はここで図書カードの「藤井樹」という表現の対象が、実は柏原崇(男性の藤井樹)ではなく、酒井美紀(女性の藤井樹)だったのか、と対象を変換して脳裏に思い描きます(すなわち、酒井美紀の顔を思い浮かべます)。その直後に最後の場面が来ます。大人の女性の藤井樹(中山美穂)の家に、前に知り合った中学校の図書委員の女の子たちが一冊の本を持ってやってきます。女性の藤井樹がその本を受けとり、中の図書カード見てみると、そこには「藤井樹」とだけ書かれています。そして彼女が女の子たちにうながされてカードの裏を見てみると、そこには中学時代の女性の藤井樹(酒井美紀)の似顔絵が描かれており、そこで彼女は初めて男性の藤井樹の自分に対する恋心に気づき、照れながら涙ぐみます。で、エンドロール。ここで観客は、さきほど博子の言葉によって脳裏に描いた酒井美紀の顔が、いま見た図書カードの酒井美紀の似顔絵と二重写しになって、また、博子の予想が的中していたこと知って、感動の大団円を迎えるわけです。――最後の音楽も、豊川悦司など俳優陣の演技も素晴らしかったです。

 素晴らしい休日を過ごせました。ありがとうございました。




(2025年4月13日)

2025年04月13日