娘が幼稚園時代のことはあまり覚えていないけれども一つだけはっきりと覚えていることがある。それは、幼稚園で何の行事のときだったかは忘れたけれども、とにかく幼稚園の先生の発案で、同じ組と思われる親子が10組ぐらい集まってみんなが車座になって座り、一人ひとり親が順番に自分の子どもの性格や特徴をみんなに簡単に伝えていくという企画、つまり親が互いに自分の子を名前とともに紹介し合うという企画だ。だいたい子どもはみんな親の膝の上に座っていたと思う。企画の内容からしておそらく春の頃だろう。たぶん何らかの理由があって妻が来られなくて、それで私の出番となったのだと思う。そのとき私は「この子は好奇心旺盛な子で、あと体を動かすのが好きな子です」と言ったのを覚えている。あれから十数年、本当にスポーツが好きで、好奇心の旺盛な、本好きな子になった(読んでいる本の内容を熱弁して教えてくれることがよくある)。漫画、アニメ、映画好きでもある。お茶目で楽しいことが大好きで、それでいて年頃になっても父親を遠ざけない優しい子でもある。私のスタバ友達でもある。

 かつて中村光夫は、大人になった自分の子どもに話しかける楽しみは「老年」のものなので、「少し寂しいたのしみだ」(『青春と女性』)と表現したことがある。同書で中村は、娘が他家へ嫁いだのを実感した際、「寂しいと同時に不思議な安堵に似た気持ちでもある」、「娘というあまりに身近で、よく見ることのできなかった存在が、ひとりの独立した女性として出現したという感じなのだ」(同)と言い、「まるで蝉の幼虫が殻を破って、蝉になるのを見るようなめざましい見ものだ」(同)と新鮮な驚きを吐露している。

 うちの娘は嫁ぐわけではないけれども、明日は高校の卒業式、もうほぼ大人だ。もう高校生の娘は見られず私は「寂しい」気持ちもあるけれども、また新たに羽ばたいてもらって、「新鮮な驚き」を期待しています。とにかく、とにかく、おめでとう。




(2026年2月28日)

2026年02月28日