三浦つとむの安保論(再掲)

 1959年11月、日米安保改定の直前に刊行された三浦つとむの著書に『人生――人間のありかたと生きかた』(講談社刊)というのがあります。これはのちの『生きる・学ぶ』(季節社刊、1982年)などと同じく、三浦の家族観・社会的人間観がやさしく述べられている著書ですが、時節柄か、米軍基地や日米安保について述べた箇所もあります。三浦にしては珍しい文章だと思うので、今日はそれについて紹介しておこうと思います。


《 日本の再軍備を主張する人たちが、きまって持ちだしてきたたとえ話に、「戸じまり論」とよばれるものがある。どんな家でも戸じまりが必要だ、戸じまりをしなければ泥棒の入ってくるのを防げない、起り得べき外国の侵略にそなえて軍備を持つことは、家に戸じまりするのと同じなのだ。――こういうたとえ話である。なるほど、と多くの人たちが同感する。

 この同感する人たちも、数年前アメリカ空軍の基地の拡張にあたって、砂川で大きな闘争が起ったことを覚えているはずである(1955年から始まった「砂川闘争」のこと)。現在でも三沢、横田、立川、入間川、板付、芦屋というアメリカ空軍の基地へ行ってみれば、戦闘爆撃機F100、全天候型戦闘機F102、大型爆撃機B57B56など、原爆水爆をつむことのできる各種の航空機がズラッとならんでいるし、横須賀、佐世保など昔の日本海軍の根拠地へ行ってみれば、空母その他各種の艦艇がイカリを下していることもわかる。北海道の千歳では急速に各種の軍事施設が拡張されているし、日本の北端に多数のアメリカ兵がうろついていることもわかる。何のことはない。泥棒は家の外にいるのではなくてチャンと家の中にいるのである。しかも原水爆というとんでもない武器を持って待機しているのである。こんな危険な話はない。まずこの危険な連中に、家の中から立ちのいてもらわなければならない。その上で、また入ってこようとするなら、二度と入ってこないようにしっかり戸じまりをするというのが、日本の現実に即した、本当の戸じまり論である。》(三浦つとむ「日本の平和と独立のために」、『人生――人間のありかたと生きかた』所収。太字は引用者)


 ここで三浦の述べている「戸じまり論」とは、つまりまずは危険な米軍に日本から出ていってもらって、そのうえで、「戸じまり」のための軍備、すなわち専守防衛のための軍備をもつことこそ、本当の「戸じまり論」である、ということです。これは現在(※2018年)の私の考え方とまったく同じです。非武装を掲げる一部のリベラル派の人たちとは違って、さすが三浦つとむは現実的な考え方をする人だ、しかも1959年当時からこういう考え方ができているのですからやはり賢い人だなと認識を新たにしました。

 このあとに三浦は沖縄について言及します。日本の独立後もアメリカが沖縄を実質的な属領とし、核戦争のための基地としていることを批判しています。1950年代後半、米軍は沖縄を核武装化する政策、いいかえれば沖縄を核戦争の最前線とする政策をとっており、この時期に岐阜や山梨など日本本土から多くの海兵隊が移駐して、沖縄本島の25%が米軍基地となりました。大づかみではあるものの、三浦がこうした事実についても認識していたことがわかります。そして近い将来沖縄が日本に復帰することになるかもしれないが、そのときは「沖縄の日本化」としての側面と「日本の沖縄化」としての側面が起こりうるのであり、《沖縄の運命はわたしたち自身の運命として考えなければならないのである。まさに民族の危機である》(前掲書)と述べています。現在、まさに三浦の危惧したとおりになっているといえるでしょう。三浦はこのあと、翌年に控えた安保改定について言及します。

 《 安保改定でアメリカと日本とが共同して戦争をする立てまえになれば、自衛隊をもっと強大にしなければならない。「戸じまり」に必要だと称する自衛隊も、実は家の中にいる泥棒の部下であって、親分のピストルを借りうけ台所の出刃包丁をふところへねじこんで、親分の命令一下いっしょに稼ぎに出かけ、親分のためには命をおしまない働きをするわけである。自衛隊がアメリカ軍と同じように核兵器を持つとすれば、いまの軍事費千五百億円を二倍から三倍にしなければならない。また兵器の値段が非常に高くなるから、人件費をへらすためにも昔の軍隊と同じような徴兵制度をとる必要がある。志願制度で十分な給料を払っていたのでは、必要な人数も集まらないし、きびしい訓練をすれば逃げだしてしまうし、人件費も莫大にかかるので、もはや限界にきてしまっている。露骨な徴兵制度はすぐに採用できないから、見かけは国民訓練とか農村工作隊とかさまざまなかたちで青年を軍隊的に組織し、一方では自衛隊の隊員に幹部教育を行い、将来現在の憲法を変えて公けに軍備できるようになったときに、この両者をむすびつけて即座に大軍隊をつくりあげるというような計画がとられるであろう。昔の日本軍隊はアジアの各地へのりこんで住民と戦った経験を持っていて、その当時の将校が現在の自衛隊の幹部におさまっている。泥棒の子分には素人よりも前科者のほうが役に立つ。アメリカはこの経験を活用して、自衛隊をアジア各地の治安維持に持っていくであろう。徴兵でひっぱられた青年たちが沖縄で台湾や朝鮮に出動させられ、自国を愛するがゆえに立ちあがったこれらの諸国の青年に銃を向ける役割を負わせられることにもなるであろう。 》(前掲書。太字は引用者)

 三浦はここで、将来、自衛隊が米軍の指揮のもとアジアへ派遣され治安維持に利用されるであろうことを予測して述べています。しかもそこに、今もっともホットなテーマである憲法改正が絡んでくることもしっかり予測しています。すばらしい分析力だと思います。日本の自衛隊が米軍の指揮のもと戦うかもしれないということは、現在の私たちは、その後明らかになった吉田・アチソン交換公文(1951年)や指揮権密約(1952年7月と1954年2月)によって知っていますが、三浦は安保改定前に、憲法改正も含めてすでにそう予測していたわけです。

《 こんな内幕話を聞けば、もちろん青年たちは反対する。母親もまた愛する息子を殺したくないと反対するにきまっている。そこで警職法の改正、防諜法の準備、教育に対する文部省の統制、労働組合への圧迫、原水爆禁止世界大会や母親大会への妨害、アカよばわりというような、民主主義と平和を守る運動を弾圧するための一連の政策が行われている。 》(前掲書)

 ここで言われている「防諜法」は、報道規制を招き国民の知る権利を侵害しかねない法律であり、すでに2014年に「特定秘密保護法」として施行されています。また、日本は核兵器禁止条約への批准をかたくなに拒んでいます。民主主義と平和を守るための運動は現在でも弾圧され続けているといえるでしょう。⑴

《 「岸さんだって日本人だ。日本人の政府が、日本の青年をアメリカの戦争政策の犠牲にするような、そんな非国民的なことをするはずがない」こう思っている人もすくなくない。自民党の莫大な選挙資金がどこから出たかは、自民党から報告されて当局もチャンと発表しているが、いわゆる「財界」からである。岸内閣は財界の大手筋のヒモツキ内閣であって、岸内閣を動かしているのは国民の意思・国民の世論ではなく財閥の意思・財界の世論なのである。財界は東南アジアへ進出しようとねらっている。賠償という名にかくれて、ビルマ、フィリピン、インドネシア、南ベトナムなどに国家の金を十何億ドルとつぎこんでいる。この賠償リベートが政商をとおして岸首相その他におくられ、熱海の別荘になったといううわさがあったこともご承知のとおりである。軍備の拡張は、財界の大手筋がにぎっている軍需産業にとって、たいへんなご利益(ごりやく――引用者)をもたらす福の神である。ロッキードかグラマンか、どの機種を国産化するかともめた新しい戦闘機は、一機四億円近くもするが、防衛庁はこれを三百機つくる計画を立てている。海上自衛隊の新鋭艦は一隻二十億円もする。ミサイル、核兵器の国産化とくればまたまた大もうけである。しかも兵器の生産は国内向けだけでなく、さきにのべた東南アジアへ輸出しようという計画を立てている。財界すなわち大資本家たちにとっては、自分たちに利潤をもたらすことはすべて善であり、軍需産業に莫大な注文のまいこんでくる軍備の拡張、これをもたらす安保条約の改定、すべて善にほかならない。これを妨害するものはすべて悪であるから、岸政府および自民党の手を通じて圧迫し弾圧を加える。キチンと筋が通っている。》(前掲書。太字――引用者)

 岸元首相の孫である安倍晋三首相も、財界とは仲良しです。彼は武器の輸出を解禁しただけでなく、憲法を改正して自衛隊を海外派兵できる道をつくろうといま必死になっています。この4月にも憲法改正は発議され、6月頃に国民投票が行われることになるかもしれません。私たちはこれに対して「ノー!」をつきつけてやらなければなりません。

《 フィリピンにいた将軍たちや、満州にいた高級官吏たちが、敗色が濃くなったときに兵隊や在満同胞を見すてて、自分たちだけ内地に逃げて帰ってきた話はよく知られている。もし原水爆戦争がはじまれば、日本のアメリカ軍基地に向って、大陸から原水爆の弾頭をつけたミサイルが飛んでくる。これを防ぐことはできない。ミサイル戦争は相手の国を徹底的に破壊することができるけれど、自分の国が徹底的に破壊されるのを防げない点で、これまでの戦争と異っている。神風の吹かないことはもちろん、日蓮大聖人の尊像に祈ったところでミサイルを止めることはできない。日本にいるアメリカ軍部隊は、現在建設を急いでいる原水爆退避のための地下壕に一応入るであろうが、自らの航空機を飛ばせミサイルを発射してしまえばあとは日本から逃げ出すだけである。日本の国民は退避壕へ入ることも、日本から逃げ出すこともできない。財閥は海外に財産をはこび出し、アメリカの銀行に預金をうつし、政府の首脳部と同じく日本の国民を見すてて自分たちだけ航空機で逃げ出すことになるであろう。》(前掲書。太字は引用者)

 たしかに、日本において、米軍や霞が関・永田町の人間たちが地下の核シェルターを所有している可能性は否定できません。私は少し前、神奈川県のある場所へ仕事で行ったときに、「このへんは、地下に米軍の広大な核シェルターがある」と噂話を聞いたことがあります。真偽はさだかではありませんが、そのとき私はありうることだなとは思いました。また、日本の核シェルター普及率は0.02%と、きわめて低いうえに、今のところ公共の地下核シェルターはひとつもありません(もちろん、政府や官僚用のものがある可能性は否定できませんが)。日本人大衆はミサイルが飛んできたら観念するしかない、というわけです。ここで三浦が危惧したことが現実性を帯びてきているというのが現状でしょう。

《 わたしたちは、わたしたちの生活をまもるために、民族の幸福のために、そして人類の幸福のために、この恐るべき現実をしっかりと見つめ、どのようにこれらと闘うかを考え、それぞれの持ち場でたゆまぬ活動をつみかさねなければならない。これは人間としての義務を果すことであり、もっとも尊い事業なのである。》

 朝鮮戦争はいまだ終わっておらず、米朝関係は悪化の一途をたどるばかり、日本の安倍長期政権は一方でやりたい放題の状態であり、戦争の危機は高まるばかりの現状において、私たちは、以上の三浦の言葉をいま一度噛みしめ、考え、そして行動する必要があるのかもしれません。





⑴ 犯罪を実行前の計画段階で処罰する改正組織犯罪処罰法は2017年7月11日に施行されています。いわゆる「共謀罪」がすでに施行されてしまっています。(2018年2月13日追記)

 


(2018/1/18 記す  2026年4月30日更新、再掲)

 

 

 


2026年04月30日